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港町の朝は、静かでありながらどこか忙しい。

港町の朝は、静かでありながらどこか忙しい。
漁師たちは船を整え、パン屋からは香ばしい匂いが漂い、通学途中の子どもたちが石畳を駆け抜けていく。
その中で私は、ポケットの中のカードを何度も指でなぞっていた。
カードの絵に描かれた金色の海は、現実の港とそっくりだった。
ただ――そこに浮かぶ小さな船だけが、この港には存在しない。

「君がこれを見る頃、きっと朝はやってくる。」

裏に書かれたその言葉は、意味があるようで、まだ靄の中に隠れている。
私は、その靄を少しでも晴らしたくて、町の情報が集まる場所へ向かうことにした。


町の中心部にある古い図書館は、煉瓦造りの静かな建物だった。
壁には蔦が絡まり、入り口には「Marine Bibliothèque(海の図書館)」と古い金属の看板が掲げられている。
重たい木の扉を開けると、かすかに潮とインクが混ざった香りが鼻をくすぐった。
館内は天井が高く、陽光が大きな窓から差し込み、本棚の影を長く伸ばしている。

受付には、白髪の図書館司書の女性が座っていた。
丸眼鏡越しに私を見て、柔らかく微笑む。
「初めての方かしら?」

「はい。…この町の昔のことを調べたくて来ました。」

「港町の歴史なら、奥の二列目から四列目にかけての棚にありますよ。」

お礼を言って奥へ進む。
本棚の間は静かで、紙をめくる音だけが響いている。
私は漁師町の記録や古地図を見ながら、1枚目のカードに似た風景が載っていないか探し始めた。


30分ほど経ったときだった。
一冊の厚い古地図集を開くと、中から小さな封筒が滑り落ちた。
古びた紙に、淡いインクで「To the finder」と英語で書かれている。
封を開けると、中には短い手紙と、また1枚のカードが入っていた。

カードには、夜の港と、波間に浮かぶ三日月が描かれている。
裏には、また短い言葉。

「夜は、朝のもうひとつの顔」

私は息を止めた。
これが2枚目の記憶カードだと直感した。
どうしてこんな場所に? しかも封筒には“見つけた人へ”と書かれていた。
まるで、私がここに来ることを知っていたかのようだ。


背後から声がした。
「それ、もしかして……あなたも見つけたの?」

振り返ると、背の高い男性が立っていた。
年齢は30代半ばくらい。
長いコートを着ていて、手には古書を抱えている。
彼の視線は私の手元のカードに釘付けだった。

「……これを、知っているんですか?」

私が問うと、彼はゆっくりと頷いた。
「知っている。いや、正確には……同じようなものを、私も持っている。」


このあと、彼が持つ“別のカード”が登場し、カード同士の共通点や意味が少しずつ浮かび上がってきます。
さらに後半では、図書館の地下書庫に眠る古い日記が伏線として現れます。

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